経営分析

企業価値評価を行う理由と代表的手法

企業価値評価は難しいイメージがあるため、言葉は知っていてもなぜ企業価値評価が必要で、具体的にどのような手法が使用されるのかは知らない方も多いです。
今回は、企業価値評価を行う理由と代表的手法について解説しています。

なぜ企業価値評価(Valuation)が必要か

企業価値評価とは

実務において、様々な場面で企業価値評価を目にすることがあると思います。企業価値評価は、その名の通り「会社・事業の価値を評価すること」です。

例えば、にんじん1袋を買おうと思ったとき、いくらで買えば良いでしょうか。
スーパーに行くと150円で買うことができるのであれば、にんじん1袋の価値は「150円」と分かりますね。そのため、150円で買えば良いとすぐ分かります。

では、会社を1社買おうと思ったとき、いくらで買えば良いでしょうか。

金額はすぐには分かりません。
そこで企業価値評価を行うことで、会社を買う時に値段をつけることができるようになります。企業価値評価によって「100億円」の価値がある会社であると分かれば、100億円が取引の参考価格になります。

「会社を買う」理由とは

「会社を買う」ことは実は結構あります。多くの人が色々な思惑で会社を買いますが、代表的な理由を見てみましょう!

<買う側の理由>
・海外進出を狙って、海外で知見を有する会社に投資する
・規模の拡大・効率化を目指して、同業他社を買収する
・新しい分野に進出するため、ノウハウを持つ別会社を買収する
・環境の変化に対応するため、新しい会社に投資する

<売る側の理由>
・不採算事業から撤退する
・事業のスリム化を行うことで、本業に集中する
・後継者不在のため、従業員の生活を保障するべく売却する

このような会社・事業の合併・買収をM&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)と言います。

企業価値評価が必要な場面

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先生

企業価値評価は主に「M&A」「グループ内取引」「会計」「係争」の観点から必要になるんだ。評価の目的を簡単に纏めたよ。

M&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)

・買収に際する価額の検討
・利害関係者への説明
・証券取引所や当局への説明

M&Aで最も重要になるのは買収に際する価額の検討ですが、あまりに価格が高すぎると本当に良かったのかといった話になってしまいます。そのため関係各所への説明責任を果たすことも企業価値評価の目的となります。

グループ内取引

・取引価格の決定
・当局への説明

グループ内でのM&Aや事業譲渡もよくあります。新聞でも○○企業再編!と記事になっていますね。グループ内と言えども各企業は独立した企業ですし、税金を支払う単位も各企業になりますので、適切な金額で譲渡金額を算出する必要があります。

会計

・会計処理の実施(取得原価配分)
・減損損失の検討
・会計監査人(監査法人)への説明

よく出てくるのが「減損損失の検討」です。国内外の子会社株式の価値を評価するために、DCF法等を使用して企業価値評価を行い、減損を行わなくてよいかの判断材料にします。もちろん、M&Aや事業譲渡が行われた際の会計処理を行うためにも使用されます。

係争

・裁判所への提出
・係争戦略の検討(争点となる価値の妥当性)

M&Aや事業譲渡等が裁判沙汰となった場合に、価格の妥当性を見る一番の材料は評価資料です。企業価値評価に基づいて適切な価格付けであったのかを確認することとなります。

企業価値評価の方法3パターン

企業価値評価は大きく3つの方法に分かれます。実務では3つの方法の中から、1つもしくは複数の方法を選びます。

・コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)
・マーケットアプローチ
・インカムアプローチ

コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)

コストアプローチは「原価」に着目する方法で、企業の純資産価値に基準にする方法です。

ざっくりお伝えすると、資産-負債で計算される「純資産」が企業の価値になるという考え方です。直感的に分かりやすいアプローチですね。
コストアプローチには「簿価純資産法」や「時価純資産法(修正純資産法)」といった計算方法があります。

簿価純資産法

単純に企業の純資産を評価額とする手法です。とても分かりやすい手法ですが、欠点として企業の時価を反映していないことが挙げられます。

例えば30年前に購入した土地(10億円)の値段が10倍(100億円)になっていた場合、相当な含み益(90億円)が会社にあることになります。しかし、含み益(90億円)は純資産には反映されていません。
「今」土地だけ購入すると100億円かかるのに、「今」土地を持っている会社を買うと土地部分は10億円ですむというのはおかしいですね。「現時点での」会社の価値を厳密に計算できる訳ではないことから、実務上は次の「時価純資産法」が通常使われます。

時価純資産法(修正純資産法)

時価と簿価に大きな差が出ている項目について時価で評価した上で「純資産」を求める手法です。上記欠点を克服した形となりますが、どこまで時価評価するかは案件によって異なります。
継続して使用する資産負債は「再調達する際の時価」、廃止する資産負債は「処分する際の時価を使います。

マーケットアプローチ

株式市場(マーケット)で成立する相場価格を基礎として企業価値を算定する手法です。「市場株価法」、「類似会社比較法(マルチプル法)」といった計算方法があります。

市場株価法

上場企業の場合、既にマーケットに出回っている株式があるため、その金額も容易に確認することができます。この時に、株式市場で取引された株価の一定期間における平均値等を使用して、企業価値を評価します。市場の評価に基づくことから非常に客観的で有用である反面、非上場企業には用いることができません。

類似会社比較法(マルチプル法)

対象となる企業の類似会社を上場会社の中から見つけ、売上高・経常利益・EBIT・EBITDA・純資産等の項目から算出された倍率(マルチプル)を基礎として企業価値を算定する方法です。
非上場会社の場合は当然ながら市場株価が存在しないため、市場株価法に代替する手段として利用されます。

<例:経常利益を指標として用いる場合>
①上場している類似会社を使って倍率を求める

株式時価総額100億円÷経常利益5億円=倍率20倍

②上記倍率を使用して、対象企業の企業価値評価を行う

経常利益1億円×倍率20倍=企業価値20億円

非上場会社の株式は市場がないため、売買は必ず相対取引となります。譲渡制限がついている場合もあり、上場会社株式と比べて非上場会社株式は売却が困難です。そのため、売主は売却先が見つかった際に割引してでも売りたいと思うでしょう。
この発想を「非流動性ディスカウント」と言い、非上場企業の企業価値評価はやや割り引いて小さい金額で求めることが実務上よく行われます。

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先生

類似会社は業界・業種・顧客属性・事業構造・ビジネスモデル・地域制・許認可等の観点から選ぶことになるんだ。類似会社によって金額が変わることも多いから、類似会社の選定が最も肝となる部分だね。

インカムアプローチ

将来期待されるキャッシュフローや損益(インカム)を基礎として企業価値を算定する方法です。
「DCF(Discounted Cash Flow:割引キャッシュフロー)法」、「配当還元法」といった計算方法があります。

DCF(Discounted Cash Flow)法

DCF法は将来のフリーキャッシュフローを算定し、現在価値に割り引いた上で企業価値を評価する方法です。企業価値評価の中心どころとなる評価方法です。

配当還元法

株主が受け取る配当に着目して企業価値を評価します。実績ベース・業種平均ベースでの配当を使用するほか、国税庁が公表している財産基本通達に規定する評価方法もあります。
配当のみを重視することとなるため、配当を重視する非支配株主間における企業評価に適していますが、その企業のビジネスモデル等は勘案されないことから、配当以外を考慮に入れる必要がある合併には適していないと言えます。

企業価値評価には「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つが用いられます。
この中から状況に最も合致した手法をいくつか採用することになります。

この記事を書いた人

清水 寛司(Hirokazu Shimizu)

公認会計士・税理士
コンライズ会計事務所代表、株式会社コンライズFAS代表取締役。
「三方良し」を心掛け、本業を強力に後押しする会計税務の可能性を活かす事務所を目指す。

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