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相続税・贈与税の2023年法改正のポイント

相続税・贈与税の2023年法改正のポイント

相続税及び贈与税とは

相続税とは、亡くなった人の財産(遺産)をもらったときに、その財産の価額をベースにしてかかる税金です。
一方、贈与税とは、例えば、相続税をできるだけ少なくするために生前に財産を贈与をしようと考える人が出てくるのを防ぐため、登場したものです。
この贈与税は、相続税の税率よりも高い税率が規定されています。
つまり、生きているうちにもらった財産については贈与税、亡くなった後にもらった財産については相続税がかかることになります。
したがって、贈与税は、相続税の補完的な税といわれており、相続税法の中に規定されている税にあたります。
どちらも所有している財産を渡す側ではなく、財産を受け取る側に課税されることが共通しています。
今回は、この相続税及び贈与税について、2023年の改正による主な変更点を5つご紹介します。

遺産分割協議の期限が実質10年に変更(2023年4月1日から適用)

遺産を相続する際に行われる遺産分割協議には、全ての相続人の合意が必要です。
話し合いが進まなかったり、連絡が取れない相続人がいたりすると、なかなかスムーズに協議が成立できないことも考えられます。
しかし、遺産分割協議がされないと、所有者不明の土地が生まれてしまうなどの問題も発生してしまいます。

この問題等を解決し、遺産分割協議を促すため、「寄与分」と「特別受益」を主張する場合は、相続開始後10年以内と定められました。そのため、実質的に10年と言われるようになっています。
なお、この期限は2023年4月1日以前に発生した相続にも適用されるので注意が必要です。
ただし、2023年4月1日から5年以内に期限が来る場合は、5年以内において特別受益や寄与分を主張できる猶予期間も定められています。

「寄与分」
①被相続人の事業に関する労務の提供、②被相続人の事業に関する財産上の給付、③被相続人の療養看護などの方法により、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献があった相続人には、法定相続分に上乗せして財産を取得できることが民法で定められている。これを『寄与分制度』と呼び、貢献があった人を寄与者、上乗せされる財産を寄与分と言います。
「特別受益」
被相続人から遺贈を受けたり、生前に資金援助を受けたりといった、「相続の前渡」に相当するものを言います。

 

不動産の相続登記の義務化(2024年4月1日から適用)

相続によって不動産を取得した場合、3年以内に不動産相続登記をする義務が定められました。
正当な理由がなく相続登記をしなかった場合、10万円以下の過料(罰金)が科されるので注意が必要です。
ただし、3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合、2024年4月1日以後に施行された「相続人申告登記制度」を利用することもできます。

これは、①相続が開始したこと、②自分が相続人であることを法務局の登記官に申告して、相続登記の簡易的な報告とするものです。
相続人が複数いても、1人で全員分を代理申し出できます。

〈相続登記の申告期限〉
2024年4月1日以前の相続:2024年4月1日から3年以内
2024年4月1日以降の相続:不動産を相続したことを知った日から3年以内

相続したくない土地を国が引き取る制度ができた(2023年4月27日から適用)

例えば、親が亡くなってしまい、親が持っていた土地を相続する場合、その土地が遠方にあったりして相続しても困ったしまう場合もあるかもしれません。
不要な土地を相続すると、その分の固定資産税がかかるだけでなく、その土地の管理をしなければならないといった手間も生じてしまいます。
そのような要らない土地を相続したくないといった場合、ほかの相続族人に相続してもらえないか遺産分割協議で話し合ってみることになりますが、それでも相続人全員に拒否され、どうしても相続したくないときはどうすればいいのでしょうか。
このような不要な土地は一般的に相続放棄が選択肢の一つとして挙げられますが、今までは、主に相続時に土地の登記が行われないことで、所有者不明の土地が生まれてしまい、国も困っていました。
こうした相続時に土地の登記が行われず、所有者不明の土地が出てくることを防ぐために、2024年4月より相続登記の義務化が開始したほか、相続した土地の所有権を国庫に帰属させることができる「相続土地国庫帰属制度」ができました。
この制度により、相続した不要な土地を国に引き渡すことができるようになりました。
ただし、法令で定める土地の要件に該当する等、審査を経る必要があります。
また、申請の際に審査手数料(1筆の土地あたり1万4,000円)、引き渡しの際に負担金(基本は1筆の土地ごとに20万円)がかかります。

〈申請段階で却下される土地〉
①建物がある土地
②担保権や使用収益権が設定されている土地
③他人の利用が予定されている土地
④特定の有害物質によって土壌汚染されている土地
⑤境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

〈負担金算定の具体例〉

宅地 面積に関わらず、20万円
ただし、一部の市街地の宅地については、面積に応じ算定
田畑 面積に関わらず、20万円
ただし、一部の市街地、農用地区域の田畑については、面積に応じ算定
森林 面積に応じ算定
その他(雑種地、原野等) 面積に関わらず、20万円
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先生

「相続土地国庫帰属制度」についてもっと知りたいときは、法務省のHPでも詳しく解説しているよ。
相続土地国庫帰属制度について – 法務省 –

 

暦年課税の「持ち戻し期間」が7年に延長(2024年1月1日から適用)

贈与税には年間110万円までの基礎控除があるため、1年間で110万円までは贈与税がかかりません。
ただし、贈与する人が死亡した場合、遡って3年以内(「持ち戻し期間」という)に法定相続人である子どもや孫が受け取った資産は「贈与税」ではなく、「相続税」の対象とされていました。
この持ち戻し期間が2023年における改正で7年に延長されました。
2024年1月1日以降に受けた贈与(相続開始日2027年1月1日以後)から順次延長されます。
なお、経過措置として、延長された4年間に受けた贈与のうち総額100万円まで加算しなくてよいとされています。

相続時精算課税制度の基礎控除110万円の創設(2024年1月1日から適用)

贈与をする場合、通常の「暦年課税」と相続税と贈与税を一体として精算する「相続時精算課税制度」が選択できます。
相続時精算課税制度とは、贈与者が60歳以上が利用条件となる生前相続のための制度であり、18歳以上の子・孫などへの贈与は2,500万円まで非課税にし、相続発生時に相続税の対象とするものです。
この相続時精算課税について、2023年の税制改正により、基礎控除110万円が創設されました。
これにより、相続時精算課税を適用する際、暦年課税の基礎控除額である年110万円までは相続税の対象にしなくてよくなります。
相続時精算課税制度について、当該制度の適用を受けている者が、その特定贈与者から贈与によりもらった財産にかかるその年分の贈与税について、税額計算が次のように改正されました。

[改正前]
・課税価格―特別控除額(2,500万円)=(A)
・(A)×20%
[改正後]
・課税価格―基礎控除110万円―特別控除額(2,500万円)=(B)
・(B)×20%

従来は基礎控除がありませんでしたが、一般贈与の基礎控除とは別枠として、特別控除額2,500万円に加え、基礎控除110万円も控除して税額計算が行われるように改正されました。
また、110万円以下であれば贈与税の申告も必要ありません。

終わりに

2023年の法改正による相続税及び贈与税の主な変更点を5つにまとめてみました。

①遺産分割協議の期限が実質10年に変更(2023年4月1日から適用)
②不動産の相続登記の義務化(2024年4月1日から適用)
③相続したくない土地を国が引き取る制度「相続土地国庫帰属制度」の開始(2023年4月27日から適用)
④暦年課税の「持ち戻し期間」が7年に延長
⑤相続時精算課税制度の基礎控除110万円の創設

税制の改定は毎年行われており、常に新しい制度について知っておくことが大切です。
ご両親がご高齢の方や、ご自分のお子さんやお孫さんへの財産の移転を考えている方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。

本記事の監修者

清水 寛司(Hirokazu Shimizu)

公認会計士・税理士
コンライズ会計事務所代表、株式会社コンライズFAS代表取締役。
「三方良し」を心掛け、本業を強力に後押しする会計税務の可能性を活かす事務所を目指す。

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