会計

IFRS(国際財務報告基準)とは

IFRSは国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)の頭文字を取った言葉です。
今回はこのIFRSについて、基礎的な部分からのれん減損を例にとった応用的な部分までみていきましょう。

IFRSの基礎

IFRS(International Financial Reporting Standards)は日本語訳すると「国際財務報告基準」です。国際的に財務報告の基準を統一する目的で設定されている会計基準(報告基準)です。

実は、会計基準は世界中を見渡すとたくさんあります。日本で使用されている会計基準は一般に「日本基準」(J-GAAP)と言われていて、その他で有名な会計基準には米国会計基準(US-GAAP)、IFRSが挙げられます。例えば言語は日本語・英語・フランス語・ロシア語・中国語とたくさんありますね。経済界の言語である会計も、会計基準自体は多くの国で別の基準が使われています。
しかしながら、フランス語とポルトガル語が似ている部分があるように、会計基準も似ている部分がたくさんあります。そのため会計基準を考える際は、全く似ていない部分をピックアップして、その差を検討する形を取ることが多いです。

IFRSの設定主体は国際会計基準審議会(IASB)で、一般的にIFRSという場合には以下の様々な基準を含む総称で言っています。そのため広義のIFRSには以下の基準を含みます。

例えばIFRS関連論点でよく挙げられる「のれんの減損」は、IASの36号に規定されています。
(狭義のIFRSはあくまで「報告」基準です。つまり、どう開示するかの基準です。)

・国際会計基準(IAS:International Accounting Standards)
・国際財務報告基準書(IFRS:International Financial Reporting Standard)
・解釈指針委員会(SIC :Standing Interpretations Committee)解釈指針
・国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC:International Financial Reporting Interpretations Committee)解釈指針

Column:日本で使用できる会計基準は?
現在日本の取引市場に上場している会社が使用できる会計基準は、「日本基準」「米国会計基準」「IFRS」「修正国際基準」の4つです。多くの企業は「日本基準」を採用していますが、海外に出ているような大企業だとIFRSを任意適用している企業も多いです。

IFRSの特徴

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先生

IFRSは「原則主義」で「貸借対照表を重視」した「国際基準」と言えるんだ。この点が日本基準と大分異なる点だから、1つずつ見ていこう!

原則主義

IFRSは細かい規定や数値基準があまりありません。もちろん会計処理を考えるうえで欠かせない根幹部分は明確な規定がありますが、それ以外は「取引の実態に合った会計処理」を行うことに重きが置かれています。細かい規定がないため、同じ経済事象が起こっても、A社とB社で考え方が異なる場合、その考え方を反映すべく異なる会計処理を行うことになります。
このように自由度の高い基準になると、投資家としては「この処理はどうやっているのだろう?」「この判断を経営者はどう考えているのだろう?」という疑問が湧いてきます。
細かい規定がある場合は、その規定に基づき会計処理を行っているので、疑問の余地はありません。しかし、IFRSを導入すると、会計処理の前提は企業によって異なることになるため、投資家の疑問は多くなります。
投資家の疑問に答えるため、そして自社の会計処理が誤っていない正しいものであることをしっかりと説明するため、IFRSを導入すると「注記」が増える傾向になります。

一方、日本基準や米国会計基準は細則主義といい、細かい規定や数値基準が多いです。企業の自由度は下がるものの、説明責任もIFRSと比べると小さくなります。
筆者が行ったIFRS導入支援時は、導入初年度の注記量がざっと2倍になっていました。すさまじい量ですね。。
そのため企業としても会計処理の方向性から注記に至るまでいくつもの関門があり、IFRSに移行することは一大プロジェクトになる傾向があります。

貸借対照表重視

日本では多くの方が損益計算書(P/L)を重視します。どのくらい売上があって、粗利はどれくらいで、営業損益はこう、最終ラインである当期純利益の水準はこう、、といった形です。
一方、IFRSでは貸借対照表(B/S)を重視します。貸借対照表を重視するというのは、主に以下の点が挙げられます。

公正価値(時価評価)を重視
・企業の価値を将来キャッシュフローの形で表現
包括利益(資産と負債の差額概念)を重視

IFRSでは企業価値評価の基礎情報を貸借対照表上で表現します。基準日時点における企業の資産・負債を最も適切な評価方法で評価した上で開示(公正価値:Fair Value)することが重視されます。

その結果、馴染みがあった損益計算書は「包括利益計算書」に様変わりします。B/SとB/Sの橋渡しをするためには、包括利益で考えることが必要となるため、IFRSでは「包括利益」という見慣れない利益が使われています。

国際基準

IFRSは国際基準のため全て英語で表現されており、言語による認識の相違を防いでいます。各国が全てIFRSになると、競合他社との比較分析がしやすくなります。A社は米国会計基準、B社は日本基準を使っていると、本当の意味での業績比較はできません。しかし、両社ともがIFRSを導入すれば、比較検討がしやすくなりますね。
一方、日本の会計処理は日本の税法と絡めて作られており、税務上の問題なども考慮されていますが、IFRSは当然各国の税法は加味されていません。

のれん減損から考える、日本基準とIFRSの相違

IFRSと日本基準で大きな相違がある点の1つに、のれんの処理方法についてが挙げられます。

「のれん」とは?

まずは前提となる「のれん」という勘定科目について簡単に記載します。
のれんは「超過収益力の源泉」です。この「超過収益力」を勘定科目にした時の名前が「のれん」なのです。

例えば時価100円のA社を120円で買収したとします。買い手としては100円の価値の会社のため、100円で購入するのが普通ですね。しかし買い手は、A社には120円の価値があると思って120円で買っています。将来伸びていく企業であったり、自社が買収することで業務上提携が出来てコストダウンを達成したりできます。20円分上乗せしても最終的に利益が出ると判断し、120円で購入しているのであれば、上乗せした20円分は「超過収益を産み出す力」と表現できますね。この20円が「のれん」として計上されています。

日本基準におけるのれん会計処理

のれんは日本基準上、20年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法等で規則的に償却します。そして、減損の兆候がある場合には、減損テストを実施します。
例えば先程ののれん20円は、超過収益力が20年間に及ぶ場合は20年間で規則的に償却していきます。つまり、建物や機械等と同じく減価償却をしていくイメージです。

この考え方の根底にあるのは、のれんは競争の進展によって、価値が減価する費用性資産と捉える考え方です。
建物や機械は時の経過と共に価値が減価していきますね。そのため一旦資産として計上しても、時の経過に応じて徐々に費用にしていきます。
のれんも同様で、最初に「超過収益力」を見込んで買ったとしても、その時点で優位であったことは時間の経過と共に優位ではなくなっていきます。つまり、建物や機械と同じく時の経過と共に価値がなくなっていくのです。

そのため日本基準においては、価値が減価する資産としてのれん償却を実施しています。そして、建物や機械と同様に、「固定資産の減損に係る会計基準」に基づいて、減損の兆候がある場合に減損テストを実施します。

<日本基準上の特徴まとめ>
・のれんの償却を行う(のれんは建物や機械と同じ)
・減損の兆候がある場合に減損テストを実施

IFRSにおけるのれん会計処理

一方、IFRSにおいてのれんは償却せず、最低年1回の減損テストを実施します。
日本基準上は最初20円で計上されたのれんが、1年ごとに19→18→17→…と減少していきますが、IFRSではずっと20円のままです。

そして、日本基準では「減損の兆候がある場合に」減損テストを実施しますが、IFRSは「必ず」減損テストを実施しなければなりません。
この考え方の根底にあるのは、のれんは将来の収益力によって価値が変動する資産のため、収益性の低下による回収可能性で評価すべき資産と捉える考え方です。

のれんは「時の経過に応じて価値が減っていく」資産ではなく、「将来の状況が変わった都度価値が変わっていく」資産であるとIFRSは考えているのです。

そのため将来の状況次第では価値が下落しない(超過収益力を持ち続ける)こともあるため、毎期定額で償却するのではなく、のれんの超過収益力が本当にまだあるのか毎年しっかり確認しようとしています。のれんの超過収益力があると判断されればのれんは20円のままですし、超過収益力がもう5円しかないと判断されればのれんは5円(減損損失15円)になります。

毎期しっかり超過収益力があるか確認することを「回収可能性」と言います。のれんという貸借対照表項目を重視して、のれんの「公正価値」を検討するため、まさにIFRSの考え方を表している項目ですね。そして回収可能性を毎期確認し続ける必要があるため、日本基準のように減損の兆候がある場合のみ減損テストを実施するのではなく、毎期必ず減損テストを実施します。

<IFRSの特徴まとめ>
・のれんの償却を行わない
・毎期必ず減損テストを実施(のれんの価値を毎期確認する)
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先生

毎期必ず減損テストを実施するのは結構実務負担が大きいので、慣れてくるまでは会社にとって大変なポイントでもあるんだよ。

終わりに

IFRSは貸借対照表を重視する、原則主義の会計基準です。IFRSを導入している企業の方は大変な場面も大きいかと思います。IFRSにおける考え方の根幹はのれん減損だけでなく、様々な論点項目からも見ることが出来ますので、是非色々見てIFRSという会計基準に慣れていってください!

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