流動化・証券化(SPC)

【TK-GK】匿名組合-合同会社スキームとはー証券化を分かりやすく①

SPC(Special Purpose Company)とは、特定の限定された目的のために設立される法人で、一般的に「特別目的会社」と言います。
本コラムでは、難解な部分が多い証券化・流動化・SPCについて分かりやすく解説していきます。

1.よく使われるTK-GKスキームとは

証券化・流動化の世界で最もよく使用されるスキームはTK-GKではないでしょうか。不動産・船舶・発電(太陽光・風力・バイオマス)等、様々な投資手段の箱として使用されています。

TK・GKの意味TK=匿名組合(Tokumei Kumiai)
GK=合同会社(Godo Kaisha)

上記の通り、日本語ローマ字の頭文字を取ってTK・GKと言います。日本語ローマ字を使用するのが少し変な感じですが、SPCの世界ではすっかり馴染んでいる用語です。

先ず、合同会社(GK)を設立します。その後、借入と匿名組合出資(TK)にて資金を調達し、投資対象となる物件を購入します。図に示すと以下の通りで、物件を入れる箱として合同会社(GK)を選択しており、投資家からの資金調達手段として匿名組合出資(TK)を選択しているため、TK-GKやGK-TKスキームと言います。

Column

スキームとは?
スキーム(scheme)には、計画・枠組み・体系といった意味があります。一般的なビジネス用語としてのスキームは「目的となる構想を実現するための具体的な方策や枠組み」という意味で使用されることが多く、SPCの世界でも同様の意味で使用されます。所感としては、SPCを立ち上げ、保有資産と借入先及び投資元を決定し、ビジネス上及び会計・税務・法律上全ての関係者にとって問題ない体制を構築する一連の流れ全てを「スキーム」という印象です。

SPCは登場人物が多く、計画の段階でガチガチに固めておくことでようやく成り立つビジネスです。そのため、SPCの現場では「スキーム」という言葉が何度も出てきますね。

2.匿名組合(TK)とは

https://conrise.jp/wp-content/uploads/2023/10/whtiger_tec.jpg
先生

TK-GKにおいて一番の疑問は「匿名組合とは何か?」という点ではないでしょうか。一見すると怪しそうな名前ですが、商法に「匿名組合」という名前が載っている正式な言葉です!

匿名組合の特徴

商法第二編「商行為」の中の第四章が「匿名組合」という表題で、商法第535条~542条にて規定されている法律上の組合契約となります。では、最初の535条を見てみましょう。

商法535条
匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。

この通り、利益分配を約束するのが、匿名組合の特徴です。ソニーやトヨタなどの株式を購入すると、配当を受け取ることができますね。同じように、匿名組合を購入すると、配当を受け取ることができるのです。
匿名組合はよく任意組合と比較されますが、実は上級者向けの比較です。初めて匿名組合を考える際は、株式出資と比較したほうが分かりやすいです。

匿名組合の主な特徴は以下の通りです。

匿名組合(TK)の特徴
・当事者の一方(出資組合員)が相手方(営業者)の営業のために出資をし、営業から生じる利益を分配することを約する契約
・前面に出るのはあくまで営業者(GK-TKの場合はGK
・匿名組合事業の財産は営業者に帰属
・出資者は匿名組合事業から利益が出た場合にその配分を受ける債権(利益分配請求権)を有する
・税前利益を基礎として分配(出資者側で課税が生じるのみ)するため、二重課税とならない

匿名組合員はあくまで金銭その他の財産を出資するのみで、事業に口出しはできません。すなわち、営業者の業務執行はできず、営業者を代表することもできません。また、営業者の行為について、第三者に対して権利及び義務も有しません。

二重課税の回避

https://conrise.jp/wp-content/uploads/2023/10/whtiger_tec.jpg
先生

二重課税にならないとは、分配を受ける投資家の「手取り」が大きくなることを示します!税務ロスがないため手取りが上昇します。

匿名組合の特徴としてよく出てくる「二重課税にならない」という点について、少し掘り下げてみましょう。
法人税等の税率を簡便的に30%として、事業からの利益が1,000出たとします。

①株式会社からの配当の場合

株式会社→(分配)→投資会社

(株式会社)
・税前利益:1,000
・法人税等:300【事業会社の税前利益1,000×税率30%】
・税後利益(=分配額):700【税前利益1,000-法人税等300】

株主への分配原資はこの「税後利益700」です。全額分配したとして、分配額700となります。
投資家側は受取配当金700となりますので、この受取配当金にさらに課税(※)がなされていきます。
例えば持株比率20%の場合、受取配当の半分に対して課税が生じますので、投資家側で発生する税金等は

(投資会社)
・受取配当金:700
・投資会社の税金:105【(配当額700÷2)×税率30%】

となります。そのため投資会社の手取は以下の通りです。

投資会社の手取595(分配額700-法人税等105)

※受取配当金は二重課税回避目的での益金不算入制度がありますが、持株比率100%以外の場合は全額不算入とはなりません。特に持株比率1/3以下の場合、不算入割合が下がりますので、二重課税が生じます。

②匿名組合からの利益分配の場合

匿名組合→(分配)→投資会社

匿名組合は税前利益での分配が可能ですので、税前利益1,000がそのまま分配原資となります。
(匿名組合)
・税前利益(=分配額):1,000

投資会社側では匿名組合からの分配額に課税が生じます。二重課税がないため、受取配当金益金不算入制度もありません。

(投資会社)
・受取分配金:1,000
・法人税等:300【投資会社の受取分配金1,000×税率30%】

投資会社の手取700(分配額1,000-法人税等300)

上記の通り、事業から生じた利益は同じ1,000ですが、①株式会社からの配当の場合は手取595に対し、②匿名組合からの利益分配の場合は手取700となります。
これが「二重課税が発生しない」と言われる匿名組合の大きな特徴で、このために流動化・証券化・ファンドの世界では匿名組合が多く使われることとなっています。

Column

匿名性が高い?
匿名組合の特徴としてよく「匿名性が高い」ことが挙げられます。匿名組合事業の主体となるのは営業者(GK-TKの場合はGK)のため、取引の相手方からすると「○○合同会社」が資産を保有し事業を行っているように見えます。そのため匿名組合出資者は取引相手からは分からず、登記にも出てこないため「匿名性が高い」と言われています。また、他の組合員が分からない点も、匿名性があると言えますね。

これも株式投資と比較してみましょう。トヨタの株式を持っている出資者のことを、トヨタの取引先は気にしないですよね。あくまでトヨタと取引をするのであって、その後ろにいる株主のことを気にして取引はしないことが大多数です。他の株主のことも、大株主となれば気にすることもあるかもしれませんが、大多数の株主にとっては他の株主のことは分からないです。不動産登記や商業登記もトヨタの名前で行うのであって、株主の名前で登記は行わないです。匿名組合というと匿名性が高くなんとなく嫌な印象を持たれるかもしれませんが、その匿名性は株式投資とほぼ同じと言えます。

「匿名組合」という用語は、実は「任意組合」との対比でできています。任意組合は事業主体が出資者の共同事業となるため、出資者=事業者として取引も前面に出てくることになりますし、共同事業なので全員が知り合いです。登記も出資者の名前で行う必要があります。そのような任意組合から、営業者(GK)の概念を入れることで株式出資と同じ匿名性を持たせた組合が「匿名組合」です。

3.合同会社(GK)とは

匿名組合を使用すると、上述の通り「営業者」と呼ばれる、資産・負債を保有して前面的に事業を行う事業体が必要となります。
そこでよく使用されるのが「合同会社」(GK)です。

会社形態は実は様々あり、株式会社を筆頭に合同会社・合名会社・合資会社があります。そのほかにも一般社団法人・一般財団法人・公益財団法人・公益社団法人等の法人もあり、法人格は目的に応じ様々作ることが可能です。
その中で、合同会社は株式会社とほぼ同じ特徴を持っており、使用されることが多い法人です。

グーグル、アップルジャパン、アマゾンジャパンは全て合同会社ですね。合同会社は所有と経営が一致する場合には非常に使い勝手が良いです。

合同会社の特徴

匿名組合で使用する事業体は株式会社でも良く、実際に株式会社を採用しているスキームもあります。
ただ、以下のメリットから合同会社の方が使い勝手の良い会社のため使用されることが多いです。

合同会社のメリット
・設立コストが小さい
・決算公告が不要(ランニングコストも小さく済む)

・資本金組入割合の規制なし(株式会社は50%以上が資本金)

筆者個人としては、合同会社の一番のデメリットは「知名度が低い」ことかなと思っています。株主が1人の局面(所有と経営が一致している場合)においては、株式会社より合同会社の方が上記の通りメリットが大きいです。ただ、その知名度から合同会社より株式会社の方が「ちゃんとした会社」にみられやすく、損をしている印象があります。
証券化・流動化に求められるのは不動産等の資産を保有し利益を分配する「箱」のため、知名度は一切不要です。そのため、「知名度を考慮して株式会社にする」といったスタートアップ企業によくある戦略は取られず、単純に有利な合同会社が選択されている印象です。

この記事を書いた人

清水 寛司(Hirokazu Shimizu)

公認会計士・税理士
コンライズ会計事務所代表、株式会社コンライズFAS代表取締役。
上場企業決算支援から中小企業税務支援や証券化・流動化まで幅広く対応。多数の紙面寄稿・研修講師を実施しており、難解な会計税務を分かりやすく伝えることに主眼を置いている。
顧客・自社従業員・社会全てが良い方向に向かう「三方良し」を心掛け、本業を強力に後押しする会計税務の可能性を活かす事務所を目指す。

TOP