収益に関して、新しい会計基準が出たんですね!
「収益認識に関する会計基準」が企業会計基準委員会から公表されたね。収益認識を5段階に分けて考えているから、一見すると分かりにくい基準なんだ。この5段階について、1つずつ丁寧に見ていこう!
1.新たな基準「収益認識に関する会計基準」って何?
売上はいつ、どのように、どんな金額で計上されるのでしょうか?
この根本にして単純な問いに、今までの会計基準は細かく答えてはいませんでした。日本には、売上に関する会計基準がなかったためです。
唯一にして最大の大原則が、企業会計原則に規定される「実現主義」です。財貨又は役務の提供を受けて、対価としての現金(または現金等価物)を受領した時に計上するのが実現主義です。
物を仕入れて売るような単純な取引であればこれで良いのですが、実務では非常に複雑な取引が何個も出てきます。現場では過去の事例や研究報告に基づいて売上を計上していました。売上について、包括的な基準が必要な状況が続いていたのです。
そのような状況の中、米国会計基準とIFRSが足並みを揃えて収益認識基準を策定しました。それが、「顧客との契約から生じる収益」(IFRS第15号、米国基準Topic 606)です。
世界の2大スタンダード基準である米国会計基準・IFRSが、ほとんど同じ会計基準を立ち上げたのです。
この影響を受けて、日本でも会計基準の検討を続けていました。そして、最初の疑問に明確に答える「収益認識に関する会計基準」が出来上がったのです。
2.収益認識基準の5つのステップ
収益認識基準には「①契約の識別」→「②履行義務の識別」→「③取引価格の算定」→「④履行義務の取引価格への配分」→「⑤履行義務の充足による収益の認識」の5ステップがあります。
何やら難しそうな言葉が並んでいますね…。
決して簡単ではない内容だけど、直感的に分かるよう1つずつ確認していこう!ここではかみ砕いた表現で説明するから、細かい点は原文を読んでみてね!
① 契約の識別
最初の2ステップでは、「どのように収益を認識していくか」を決めます。
「①契約の識別」は「そもそも契約と認められたものを収益に計上しましょう」という段階です。
これだけ見ると非常に当たり前の話ですね。言葉は難しく見えるものの、かみ砕けば意外と馴染むことができる基準です。
では、もう少し細かく見ていきましょう。
売上の対象となる契約は、以下5つの要件全てを満たした契約です。逆に言えば、1つでも満たさないと売上として計上してはいけないことになります。(基準19項参照)
(2)財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できる
(3)支払条件が決まっている
(4)契約に経済的実質がある
(5)対価を回収する可能性が高い
なんとなく固い表現ですが、普通の取引をして普通に契約書がある場合、(1)~(4)は通常満たされます。問題は(5)です。相手側に支払う意思・支払う能力がない場合、そもそも売上に計上することが出来ないのです。
上記全てを満たさない場合、(一定の要件を満たす場合を除いて)受け取った対価は売上とせずに「負債」として計上されます。
② 履行義務の識別
「②履行義務の識別」では、①識別した契約の中に、「何個の約束事がありますか」を決めます。
1つの契約の中でたくさんの取り決めがあることは結構あります。
例えば皆さんが家電を購入する際、5年保証や10年保証を付けて購入しますね。皆さんが家電を購入するという1つの契約の中に、2つの約束事(=履行義務)があるのです。
・家電自体を引き渡す約束
・5年間や10年間は無償で修理する約束
このように、約束事を区分してあげるのが「②履行義務の識別」です。
区分の仕方として、以下2要件のいずれも満たす場合は別個のものと考えます。(基準34項参照)
(2)契約に含まれる他の約束と区分して識別できること
先程の約束事においては、家電自体を引き渡す約束と10年間無償で修理する約束は、各々単独で利用が出来ますね。そして各々単独で契約書(保証書)に明記されています。そのため、1つの契約の中に2つの約束事(履行義務)があると言えるのです。
そして、これ以降のステップで決定される売上高は、約束事(履行義務)単位で認識していくのです。
③ 取引価格の算定
③と④の2ステップでは、「いくらで収益を計上していくか」を決めます。
「③取引価格の算定」では「そもそも対価の金額はいくらかを確認しましょう」という基準です。
取引価格は、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額です。通常の取引であれば、契約書に記載されている金額が取引価格ですね。何も考えずに次のステップに進みます。
ただ、シンプルな契約ではないパターンがあります。例えば、以下の4パターンです。
(2)契約における重要な金融要素
(3)現金以外の対価
(4)顧客に支払われる対価(例:クーポン券)
分かりやすい例だと、100個以上購入した場合に総額から20%割引しますといった契約が変動対価です。こうした複雑なケースは、対価の額をより適切に予測できる方法で決定していくことになります。
また、取引価格には第三者のために回収する金額を除きます。最たる例が消費税ですね。
国に納付する目的で預かる消費税を含めて売上に計上することが基準上できません。(税込処理が出来ない形となります。)
④ 履行義務への取引価格の配分
「④履行義務への取引価格の配分」は「対価を1つ1つの約束事毎に配分しましょう」という基準です。
売上は約束事(履行義務)が完了する度に計上されることになります。
例えば家電販売の例では、10万円のテレビを販売したとして、「テレビ自体を引き渡す約束」に7万円、「10年間無償で修理する約束」に3万円と配分します。そして、その義務が完了していく毎に売上を計上していきます。
どのように配分していくのですか?
独立販売価格の比率に基づいて、企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するよう配分を行うんだ(基準65項参照)。
独立販売価格とは、約束事1つ1つ単品の価格のことです。
保証を付けないテレビ販売が9万円、後から単独でつける10年保証が4万円とします。この時、取引価格10万円を9:4で按分していくことになります。
テレビへの配分:取引価格10万円×(9万円/13万円)
保証への配分:取引価格10万円×(4万円/13万円)
なお、単独で販売する場合、合計するとセット販売時より割高になることが多いですね。
⑤ 履行義務の充足による収益認識
最後のステップ「⑤履行義務の充足による収益認識」では、「いつ売上を計上するか」を決めます。
売上の計上パターンは2パターンあります。
・一定期間で徐々に収益認識
④のステップで認識した「テレビ自体を引き渡す約束」7万円は、引き渡して検収が完了したタイミングで売上を計上します。つまり、一時点で一括して収益を認識します。
一方、「10年間無償で修理する契約」は、進捗度に応じて売上を計上していくこととなります。この場合は、時の経過に応じて収益を認識しますので、一定期間で徐々に収益認識を行うパターンです。
3.適用時期
この収益認識会計基準は、2021年4月1日に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用します。
但し、IFRS第15号の適用時期(2018年1月1日以降開始する事業年度から適用)を考慮し、2018年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することができる、早期適用規定が設けられています。
4.終わりに
新収益認識会計基準では「①契約の識別」→「②履行義務の識別」→「③取引価格の算定」→「④履行義務の取引価格への配分」→「⑤履行義務の充足による収益の認識」の5つのステップが一番の肝となりますので、今回は5ステップを重点的に書いていきました。
難しい基準ではあるものの、売上高という影響も大きい会計基準となりますので、少しでもかみ砕いて分かりやすく理解してもらえたら嬉しい限りです!